安くて美味いがしのぎを削る大阪・梅田。若者から中高年、観光客など多くの人でにぎわう同エリアで現在、注目を集めているのが「立ち飲み鮨 謹賀(きんが)」だ。“お酒のアテになる、極小シャリ8gの寿司”を主軸に、アジフライや卵焼き、コロッケなどの1品メニューも提供する立ち飲み業態で、梅田と新世界を中心に5店舗を展開する。
最高時で坪月商120万円を叩き出す大繁盛店の謹賀を運営する、株式会社ディグ 代表取締役の奥田 一樹氏に人気の秘密と経営の裏側を尋ねた。
フリーターから「鳥貴族」FCのナンバー2に
【Q】奥田代表のこれまでの経歴を教えてください。
株式会社ディグ 代表取締役 奥田 一樹氏(以下、奥田氏):18歳のときアルバイトで、焼き鳥専門店のオープニングスタッフを経験しました。その後同じ店で2年半働いたのですが、「このままフリーターでなんとなく働いていけばいいかな」と思っていた矢先に父親が突然、倒れてしまったんです。
病院の待合室で父の容態を聞くまでの間に、「俺は何をやっているんだろう」と強く思いました。もしここで父が死んでしまったら、最後に僕が見せた姿は何の努力もしていないフリーター。「このままではダメだ」と一念発起し、翌日からすぐ仕事を探しました。
ちょうどその頃、18歳から働いていた店の店長がFCオーナーとして独立していて3年ぶりに再会したんです。独立後の店長は以前の何倍もカッコよくなっていて、「人はここまで変われるのか」と衝撃を受けました。それから「この人と一緒に働けば、僕も3年で人生を変えられるかもしれない。とにかく3年は死ぬ気でついていこう」と入社を決意して、飲食業の面白さにのめり込み約3年で会社のナンバー2になりました。
立ち飲み居酒屋に、あえて寿司をかけ合わせた理由
【Q】「立ち飲み鮨 謹賀」を開業したきっかけは何ですか?
転機になったのはコロナ禍です。当時、社内では苦境にあえぐ居酒屋に代わる新たな業態開発を始めているタイミングで、そんな中で僕は「立ち飲み鮨 謹賀」を作りました。なぜ “立ち飲み鮨” にしたかというと、まずはコロナ禍で普通の居酒屋が苦戦している中でも、立ち飲み業態には比較的コアなファンが集まっていたことです。
また、普通の立ち飲み屋は安いのはいいのですが、サービスもちょっと雑だったりするところが以前から気になっていて、もっとサービス面を追求したものを作りたいと思ったからです。
寿司を提供することにした理由はとても単純で、もともと僕が飲みの〆に寿司を食べるのが好きだったからです。でも通常のお寿司屋さんだと、4件目ぐらいに行くのでもうお腹がいっぱいで食べきれません。それにお寿司屋さんはお酒も寿司も高いので、さくっと飲み食いするのにしてもそこそこな金額になってしまうこともあります。
そこで「リーズナブルに、寿司もパッと食べられる立ち飲み屋があれば絶対に流行る」と思ったんです。お酒を飲む人はあまり食べない人が多いので、謹賀では一般的なシャリより5gほど小さい8gに設定して、一品料理の量や味付けもお酒を楽しく飲めるよう工夫しています。
開業してみると、実際にたくさんのお客様に来ていただいて「立ち飲み鮨という業態が受け入れられている」と強く感じました。もっともっと謹賀を伸ばしていきたい。その一心で、会社と話し合って謹賀の店舗を買い取る形で独立したんです。
【Q】梅田にドミナント出店されていますね。
梅田をはじめとする都市部にドミナント出店することで、認知度を高め「大阪といえば謹賀」と思ってもらえるようなお店にしたいんです。お客様にとっては、多くの店舗があることで安心感もあると思います。現在は梅田だけでなく天王寺エリアにも出店を進めていて、そこでも「寿司といえば謹賀」にしたいですね。
「安い、美味い」の秘密は市場との関係性
【Q】仕入れの工夫はどのようにされていますか。
魚のことは、実際にお店をやりながら学んでいった部分もあるのですが、市場との関係性が大事だと思っています。漁獲量はいつも一定ではないので、飲食店が思ったより買い付けてくれなくて余ってしまうこともあります。
謹賀ではその余った魚をすべて買い取り、おすすめとして旬の魚を安く提供しています。最初は「市場を助けたい」と思ってやっていましたが、今では市場から謹賀のためにと魚を確保していただくようになりました。仕入れの時点である程度さばいてくれることもあり、本当にありがたいです。
従業員の教育よりも大切なのは「面接」
【Q】飲食業界は人手不足と言われていますね。
実は、今まで採用に困ったことがないんです。当社ではアルバイトが時給1,400円から、社員は8時間労働で月8回休み、給与40万に設定していて、飲食店でも特に高いレベルを目指しています。その代わり、事前の面接で徹底的に価値観のすり合わせをしています。
「僕は売り上げを伸ばすためにこれだけ待遇を整えるから、全力でやってほしい」と伝えて、納得してくれた人に入社していただきます。価値観が合わないなかで無理に採用しても、結局すぐやめることになってお互いのためにならないと考えているので、最初の認識のすり合わせを大事にしています。
【Q】従業員の教育方法やマニュアルはどうしていますか。
当社にはマニュアルがないんです。面接で当社に合わない人を採用すると、どれだけマニュアルがしっかりしていても、失敗すると僕は思っています。教育担当は店長にお願いしていますが、学生のアルバイトであっても「学生の延長線上ではダメで、僕はもう社会人だと思って見ているから」と伝えています。
そのうえで合う人に入っていただくので、自ら学んで育ってくれます。中にはどんどん仕事をこなして、時給をどんどん上げていく人もいます。時給が高ければ、短時間で集中して働けます。ダラダラ6時間や8時間働くよりも、全力で4時間働く。その方が対応されるお客様も喜んでいただけると思っています。
これからもスタッフにどんどん還元し、海外出店も視野に
【Q】今後の展望を教えてください。
原点に返って、小さな暖簾をくぐって「おっちゃんいける?」みたいな温かいお店が好きなんです。「今ちょっと満席で、帰ったお客さんの席片付けるからちょっと待って」なんて言われたりして、「どれぐらい?ほな、僕がもう皿を下げるから」みたいな、温かいコミュニケーションがあるお店が僕は結局いいなと思います。
マニュアルも大事かもしれませんが、あまりにもビジネス目線が行き過ぎるとどこかで行き詰まる気がします。お金よりも人情を僕は信じたい。それこそがお客様にとっても一番の喜びにつながると思うので、これからもこのスタイルでやっていきたいです。そんな「お客様が喜ぶこと」を提供するお店を増やして、5年以内に15~20店舗を達成し、海外出店するのが夢です。
そして僕は、自分で贅沢するよりも経営にお金を使いたいんです。会社をやっている以上、自分だけではなくスタッフも含めて皆が良くなるようにしたいので、今後としてはほとんどのスタッフを1000万プレイヤーにしてあげたいです。店長クラスであれば近い水準まで上げられているので、もっと店舗を増やしてスタッフに還元して待遇を上げていきたいですね。
店舗数の増加に合わせて、本部も作りたいと考えています。今、真剣に本部機能を任せられる人を探しているので、飲食の経験があって「何かやりたい」と思っている人がいればぜひ話したいです。